取材、文:髙岡謙太郎
目の前に存在するかのように3DCGがステージ上に投影される、世界初の常設ホログラフィック劇場「DMM VR THEATER」。ここではゴーグルを装着せずにVR体験ができるという希少な会場だ。ここで先鋭的な映像作家とミュージシャンたちによるオーディオ・ビジュアル・イベント「VRDG+H #2」が、2016年4月30日(土)に開催された。
HIP LAND MUSICがスタートさせたクリエイティブ・ディビジョン"INT"と、オーディオビジュアル表現のためのプラットフォーム"BRDG"とのコラボレーションによる、イベント「VRDG+H #2」。今回のイベントは前回に引き続いてチケットはソールドアウト。ペッパーズ・ゴースト形式でステージ上に投影されるホログラフィック映像を一目見ようという観客によって賑わった。思わずシェアしたくなる映像の数々で、会場は撮影OKという粋な図らいもあった。なお、今回はレポートと合わせて、開演前に各映像作家からコメントを頂いた。
Kezzardrix x Jimanica
生ドラムを叩きながら電子音を流すミュージシャンのJimanicaと、映像作家のKezzardrixによるライヴ・セッション。ステージ上で叩かれるドラムに合わせて、リアルタイムでシンプルな3DCGの立体物が落ちる。時間が経つにつれて、徐々に個数や複雑さが増していく。曲ごとにテーマが変わり、背景にアブストラクトな映像を投影しながら、全面では水球が浮かぶ楽曲や、スネアを鳴らすと水球が破裂するという映像もあり、曲によって見せ方を変えていた。
Kezzardrix
――今回の作品はどういったものですか?
「今回は、Jimanicaさんのドラムトリガーの叩いた信号を読み取って、ブロックが落ちてきたり、球体が動いたりする演出をしています。即興的な要素をけっこう盛り込んで、リアルタイムでパラメーターをいじれるようにしました。一個クリックするとギザギザした物体が生えてきたり、ボタンを叩くとウネウネした物体が出てきたりとか、リアルタイムで手で触れるようになっています」
――使っているソフトウェアを教えてください。
「Max MSPで制御していて、映像の音に対する反応の仕方をいろいろ変えながらパフォーマンスをしました。このシアターの特性上、モノが浮いているように見えたほうが、ここでやる意味がある。奥にカメラが進んでいくネタをすると、スクリーンと仮想空間の画角が合わないので、『全然関係ない映像を半透明で射っているな』となってしまう。そういったスクリーンの特性を活かしながら、20分引っ張れるような映像を作るところがけっこうチャレンジですね。それを今から試してみる感じです(笑)」
Keijiro Takahashi x OBA x DUB-Russell
DUB-Russellのエッジの効いた電子音楽に合わせて、映像作家のKeijiro Takahashiによる3DCGの女神像にゲーム的なエフェクトが過剰に掛かる。それだけでなく、ステージの中央ではコンテンポラリーダンサーのOBAが曲と映像に合わせて渾身の舞踊をみせる。音楽と映像、そして身体による表現が渾然一体となったステージとなった。
Keijiro Takahashi
――前回も出演されていましたが違いを教えていただけますか?
「今回ステージ上はダンサーさんだけなので、ダンサーさんと映像を合わせるかに注力しています。前回のネタを使いつつ、曲も変更になっているので、ダンスと以下に合わせるかで新しい展開を組み込みつつ、構成はガラッと変えました。前回でホログラムの使い方はわかったんですけれど、そこに人が乗った時にどう組み合うかがまったく未知数でした。今回は動き回る方がいるので、そこがチャレンジになりますね。実際にこの劇場で実験してみないとどうなるのかわからないので、なんとかリハーサルの時間を確保しました」
――ゲーム的なエフェクトを美術的に使っているのが魅力的ですよね。
「元々ゲームを作っているプログラマーなので、ゲームはゲームのケレン味があるので、あまりそれをやってしまうとゲーム的になってしてしまうので、この劇場の文脈で映えるものをピックアップしていくと、こんな感じになるのかなと。本番やってみないとわからないところがあるので、けっこうドキドキしています(笑)」
Aqueduct x Katsuhiro Chiba experimental 9.1ch
会場の照明を消して暗転した状態からパフォーマンスがスタート。この会場の魅力である9.1チャンネルの音響設備を活かした、Katsuhiro Chibaによる電子音が会場を旋回。
あたかもそこにあるかのように電子音が会場を移動する。視覚を頼らない音のVRを体験した数分後、ステージ上にはAqueductによる洞窟のような3D空間が出現。旋回する電子音に合わせて、多数のオブジェクトが飛び交い、視点も目まぐるしく変わる。仮想空間を冒険するかのような演出にトリップした。GPU実装のパーティクルシステムを公開しているのでチェックしてほしい。
https://github.com/mattatz/unity-gpu-particle-system
Aqueduct
――今回の作品について教えて下さい。
「Katsuhiro Chibaさんが、リアルタイムで制御できる3D空間のパンナー(音を振るシステム)を9.1チャンネルで作って、それに完全同期するような映像を制作しました。Chibaさんの方からカメラの位置と回転の位置のデータを常に頂いて、それと同じ位置に映像上のカメラを作ってから空間を作りました。実際に見る映像は真ん中にオブジェクトがあって、真ん中に寄るとそこを中心に音が聞こえる。回転すると音も回る内容になっています」
――今回、苦労された点はありますか?
「映像と音を同期をするのは簡単ですが、酔わないようにするのがなかなか大変だったかな。作っていて自分たちが気持ち悪くなった。横の視点移動が映像上で多いと人は酔いやすいんです。どこか安定して見れる場所が映像上にあるといいんですけど。また、今回はステージ前面のホログラムと背景のレイヤーを使って、立体的な映像を作っています。ステージ上に誰も立たずに、自分たちの場合は映像だけで奥行きを作っています」
Daihei Shibata x FEMM x Lil' Fang(FAKY) x Yup'in
エナメルのセーラー服を着た女性のマネキンが二体ステージ上に配置される。アップリフティングなダンスミュージックが流れると人形たちは踊り出す。彼女たちはマネキンダンスユニット、FEMM。ゲームや和を意識したものなど曲ごとのテーマに合わせて、Daihei Shibataによって作りこまれた映像と同期したダンスを披露するというエンターテイメント性に特化したステージで、終演とともに拍手が湧き上がった。
Daihei Shibata
――前回との違いはありますか?
「それぞれクオリティをあげたりとか、前のホログラフのスクリーンだけだったんですけれど、今回は背後の面も投影するようにしました。5曲あるんですけれど、なおかつホログラフィックで、一曲だけアップデートされている曲があったり」
――ダンサー側から指示はありましたか?
「おまかせで。特にあまり指示がなかったので」
――一番良く出来たと思う作品はどちらですか?
「文字が落ちてくる作品があるんですけれど、それがすごいホログラフを活かしているし、世界観を気に入っています」
――作っているソフトウェアなど環境を教えていただけますか?
「アドビのプレミアとかシネマ4Dで曲に合わせて作っています。少しづつ調整するので地味な作業ですね(笑)」
Atsushi Tadokoro × Renick Bell
ライヴコーディングとは、その場でプログラミングのコマンドを入力をするパフォーマンス。ステージ上にはプログラマーのRenick Bellが立ち、その前面の映像にはソースコードの文字列が並び、その場で入力されたコマンドに合わせて音が鳴る。ステージ中央に投影された音のライヴコーディングに合わせて、左右のスクリーンではAtsushi Tadokoroによる映像のライヴコーディングが返答される。まさにコードの応報。無骨なリズムに合わせて、アブストラクトな映像が絡みあう。ハイコンテクストな表現に会場の聴衆は息を呑んだ。
Atsushi Tadokoro
――今回の組み合わせの経緯を教えていただけますか?
「Renickさんが音のライヴコーディングして、自分は映像をライヴコーディングで出している構成です。Renickさんは他のイベントで共演したことから繋がりが生まれて。以前のイベントは、別々にソロで音のライヴコーディングをしていました。今回は二人で一緒にやるなら、映像と音でやろうということになりました」
――苦労された点はありますか?
「Renickさんは、曲という概念なのかわからないんですけれど、毎回違うんですよね。それで予め想定できないのが意外と面白いところでもあり、大変なところでもあり。今回、僕は映像をいちから作るのはさすがに大変なので、ある程度作っておいたものを切り替えるスイッチングをライヴで書いています。コーディングでテンポや切り替え方を変えてやっていて、動画でなくてその場で生成しているコードをライヴで書き換えています。きっちり作りこんでいるステージでなく、その場で作られた音に対するレスポンスの映像をライヴで楽しんでもらえればと」
現場で体験しないと知覚できない視覚と聴覚の演出の数々を数時間で堪能した。前回よりも会場の特性を理解して最大限に活かしたショーケースとなり、回を重ねるごとにより洗練されていくだろう。エンターテイメントの未来を可能性を拡張する催しを、次回は肉眼で楽しんで欲しい。
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